以上のように、地域によって、移民に関する様々な課題を抱えています。それでは、現在どのような移民政策が実施されているのか、諸外国と日本の例を見ていきましょう。
2012年から、ヨーロッパ諸国では「EUブルーカード」という高資格の外国人労働者向けの滞在許可証が発行されるようになりました。大卒で高収入の職が保証されている人、また理工系の高度資格保有者、医師などは、滞在許可の条件が優遇され、永住権の申請条件も優遇されます(注12)。
このように、高度な専門性を有する外国人人材の受け入れを積極的に行っている一方で、移民の受け入れに対する規制強化も進んでいます。
難民危機の折に、率先して寛大な難民受け入れ政策を打ち出したのがドイツです。2015年、メルケル首相が大規模な難民受け入れを宣言し、1年間で100万人近い難民がドイツに流入しましたが、移民排斥を訴える勢力が台頭するなど政治的混乱が生じました。与野党の対立を背景に、2018年には、移民の受け入れや家族の呼び寄せを制限する政策が採用されました(注13)。
フランス政府は、2019年11月に「移民?難民?同化政策の改善に向けた20の政策措置」を発表しました。主な政策として、難民審査機関の大幅増員、難民や不法移民向けの医療援助制度の厳格化、そして外国人人材の積極的受け入れに向けたクオータ制の導入などが挙げられます。
審査機関の増員によって難民審査を迅速化するとともに不法滞在者を速やかに国外退去させることにつなげ、さらに、制度の厳格化によって社会保障制度が不当に搾取されることを防ぐのが狙いです。クオータ制では、国内で人材が不足している産業分野で、能力ごとに受け入れ人数を定めて移民を受け入れる計画です(注14)。
アメリカでは、不法移民対策が強化されると同時に、難民の受け入れ数が顕著に減少しています。2017年以降、メキシコ国境の警備強化が繰り返され、2018年には、メキシコ国境から違法に入国した者を例外なく起訴するという政策が打ち出され、他にも、強制送還の対象が拡大されるなど、ここ数年で不法移民への取り締まりが強化されています(注15)。
これと並行して、難民受け入れの一時停止、難民による再定住申請の審査の厳格化、再定住難民の受け入れ枠の削減などが実施されました(注16)。また、移民による家族の呼び寄せを大幅に制限し、ヨーロッパ諸国と同様、高度な能力や学歴を有し経済的に自活できる人材を選択的に呼び込む方針に転換しています(注17)。
日本では、2019年4月から「出入国管理及び難民認定法及び法務省設置法の一部を改正する法律」が施行されました。一般に「改正入管法」と呼ばれているこの法律が、事実上の「移民法」であると言われています。この法改正により、人材が不足している産業分野での技能を有する外国人人材向けに「特定技能」という新たな在留資格が創設されました(注18)。人手不足の解消につながる外国人人材を積極的に受け入れるという点で、諸外国の移民政策と方向性は同じであると言えます。
他方で、在留期間に5年の上限があり、ヨーロッパのブルーカードのように永住に向けた優遇措置が定められていないこと、また特に熟練した人材以外は家族の帯同が認められないことなどから、あくまでも労働力としての一時的な滞在を想定していることが伺えます。
国際連合経済社会局(UN DESA)と国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)が公開しているデータを使って、ヨーロッパ及び北米で移民の多い10カ国と日本について、国内にいる移民数と難民数、そして2019年にUNHCR経由で第三国定住の審査を行った難民数を表にまとめました。第三国定住(再定住)とは、出身国外で難民認定を受けてキャンプ等で暮らしている難民を、先進国を中心とする第三国に定住させる取り組みです。
国 | 2019年移民数(注19) | 2018年難民数(注20) | 2019年再定住受付数(注21) | |
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1 | アメリカ | 5,066万人 | 31万3千人 | 24,808人 |
2 | ドイツ | 1,313万人 | 106万4千人 | 9,640人 |
3 | イギリス | 955万人 | 12万7千人 | 3,507人 |
4 | フランス | 833万人 | 36万8千人 | 3,307人 |
5 | カナダ | 796万人 | 11万4千人 | 14,624人 |
6 | イタリア | 627万人 | 18万9千人 | 413人 |
7 | スペイン | 610万人 | 2万人 | 1,193人 |
8 | スイス | 257万人 | 10万4千人 | 1,102人 |
9 | オランダ | 228万人 | 10万2千人 | 1,433人 |
10 | スウェーデン | 200万人 | 24万8千人 | 5,408人 |
日本 | 250万人 | 1900人 | 40人 |